相続登記義務化法案等について

《正当な理由なく》    
相続登記の申請を怠ったときは、10万円以下の過料!!  
2024年4月28日までに施行

《正当な理由なく》   
 住所氏名変更登記を怠ったときは、5万円以下の過料!!   2026年4月28日までに施行

2021年4月21日参議院本会議において、「民法等の一部改正する法案」及び「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法案」(いわゆる「相続登記の義務化法案」・「住所等変更登記の義務化法案」)が全会一致で可決・成立し、同年4月28日に公布されました。相続の登記や住所・氏名の変更の登記の義務付けや相続人申告登記・土地の所有権放棄制度の創設などを内容とし、公布の日から3年以内または5年以内に施行されます。相続登記や住所・氏名変更等登記を正当な理由がなく、怠っているとそれぞれ10万円以下、5万円以下の過料に処する規定が設けられました。

 

【背景】

わが国では、超高齢社会に突入し、『大相続時代』が到来している中、国の調査(平成30年度版土地白書)では、登記簿の約20・1%(九州の面積約410万haを超えている)が「所有者不明土地」であることが判明しています。相続登記未了によるものが約66・7%、住所変更等登記未了によるものが約32・4%を占めると算出されており、相続登記がされていないことが「所有者不明土地」の大きな原因とされています。このまま放置された場合、2040年には約720万㏊(北海道本島の土地面積)に迫る水準に増加するという予測もあるなど、社会的大問題になっています。不動産取引の安全・安心・円滑を目的とする不動産登記法の形骸化が深刻化しています。

上記の改正内容には、相続登記の義務化、土地の国庫帰属制度等、市民の生活にも多大な影響を与えるものとしてマスコミでも大きく取り上げられており、市民の関心も高まっています。

 

【早めの相続登記をお勧めいたします。】

数世代にわたって相続登記を先送りにするなど、相続登記未了の問題が、今回の「相続登記義務化法」の改正により一気に噴き出すことが予想されます。

この相続登記未了を解消するには、戸籍を集めるだけでも、一般の方には手に負えないと思いますし、その後に遺産分割協議書の作成をしなければならないとなると、なおさら困難な自体になると思います。私ども相続登記の専門家の司法書士に早めの相談をお勧めいたします。

 

【本Q&Aの利用にあたっては、次の点に留意してください。】

①「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案」及び「法制審議会―民法・不動産登記法部会ホームページ中の各部会資料及び議事録」を参照してください。

②通常国会で法案が成立後は当該法案の内容を確認してください。改正法の成立後に、政令・省令・通達等により細目が整備されることになります。

③改正法等の施行時期は、公布の日(2021年4月28日)から、3年以内に施行される項目と5年以内に施行される項目があります。まだ確定していません。

 

《 目 次 》

 

第1 所有権の登記名義人の相続登記の申請義務

1 なぜ、相続登記の申請が義務化されるのですか?
2 相続登記の申請の義務履行には、期限が付されるのですか?
3 相続の発生等を知ってから3年以内に相続登記を申請しなかった場合、何らかのペナルティはありますか?
4 相続の発生等を知ってから3年以内に相続登記を申請しなかった場合、直ちに過料が科されることになるのでしょうか?
5 何らかの事情で3年以内に相続登記の申請ができないときは、どうすればよいですか?
6 所有権の登記名義人が亡くなってからすでに相当の期間が経過しているのですが、相続登記の義務の対象となりますか?

 

第2 所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所の変更登記の申請義務

1 なぜ、所有権登記名義人の氏名若しくは名称又は住所の変更登記が義務化されるのですか?
2 所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所の変更登記の申請を義務履行には、期限が付されるのですか。
3 2年以内に所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所の変更登記を申請しなかった場合、何らかのペナルティはありますか。
4 2年以内に所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所の変更登記をしなかった場合、直ちに過料が科せられることになるのでしょうか。
5 登記官が、前期2-4にあるように、不動産の所有権の登記名義人の氏名、名称又は住所変更の登記を職権で行う場合、プライバシー保護やDV等の被害者保護の対処はされますか。

第3 国内の連絡先の登記
1 不動産の所有権の登記名義人が外国に居住する場合の登記事項について教えてください。
2 登記の対象となる日本国内の連絡先は、だれでもよいのですか。
3 いろいろと手を尽くしましたが、日本国内の連絡先となる者が見つかりません。どうすればよいですか。

第4 所有不動産記録証明制度(仮称)

1 登記所が発行する不動産の名寄せの写しについて教えてください。
2 所有不動産記録証明(仮称)は、誰でも取得することができますか。

第5 その他の改正点        

1 相続で取得した土地を手放したいのですが、どうしたらよいですか。
2 遺産の分割の期間制限について、教えてください。
3 共有についても改正がされると聞きましたが、改正された事項には、どのようなものがありますか。
4 所有者不明の不動産については、新たに管理人の制度が設けられると聞きましたが、どのような制度ですか。
5 所有者による管理が不適当な不動産についても、新たに管理人の制度が設けられると聞きましたが、、どのような制度ですか。

第1 所有権の登記名義人の相続登記の申請義務

 

1 なぜ、相続登記の申請が義務化されるのですか?

将来において、所有者不明土地が発生するのを予防するためです。

近年、所有者不明土地の存在による景観・治安の悪化、近隣損害及び公共工事の実施の遅れ等が問題になっていますが、所有者不明土地になっている土地の3分の2が、相続登記がされていない土地であるといわれています。

そのため、相続登記の申請を義務付けて、不動産の所有者に関する最新の情報を公示することを目的としています。

 

2 相続登記の申請の義務履行には、期限が付されるのですか?

不動産の所有権の登記名義人に相続が発生し、かつ、それによって当該登記名義人から当該不動産を取得したことを知った日から、3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。

 

3 相続の発生等を知ってから3年以内に相続登記を申請しなかった場合、何らかのペナルティはありますか?

正当な理由がないのに相続登記の申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処されます。

 

4 相続の発生等を知ってから3年以内に相続登記を申請しなかった場合、直ちに過料が科されることになるのでしょうか?

過料が科せられるのは、あくまで、正当な理由がないのに登記の申請を怠ったときに限られます。

具体的に、正当な理由の有無等を登記官がどのように判断するかについては、登記官が相続人に対して登記申請をするようあらかじめ催告し、それでも登記の申請を行わなかった場合に限り過料を科すこととする等、相続人の負担が重くならないように運用される予定です。

なお、その運用は、今後省令や通達によって定められる予定です。

 

5 何らかの事情で3年以内に相続登記の申請ができないときは、どうすればよいですか?

相続人が、登記官に対して、所有権の登記名義人につき相続が開始したこと及び自らが当該所有権の登記名義人であることを申し出ること(相続人申告登記(仮称)の申出)により、当該申出をした相続人については、相続登記の申請の義務が免除されます。

 

6 所有権の登記名義人が亡くなってからすでに相当の期間が経過しているのですが、相続登記の義務の対象となりますか?

今回の改正法が施行される時点ですでに所有権の登記名義人につき相続が発生し、相続登記未了となっている不動産についても、相続登記の申請の義務が課される予定です。

(附則案第5条6項)

①自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日

②改正法の施行日

③①または②のどちらか遅い日から3年以内

となっており、多くの対象者は、改正法施行日から3年以内に相続登記をすればよいことになります。

また前期5と同様に、相続人申告登記(仮称)による申出をした相続人については、相続登記の申請の義務が免除されます。

なお、相続人が多数になる等して権利関係が複雑になっていることがあり、国民の負担を軽減するため、所要の経過措置を設けることとされています。

 

 

第2 所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所の変更登記の申請義務

 

1 なぜ、所有権登記名義人の氏名若しくは名称又は住所の変更登記が義務化されるのですか?

将来において、所有者不明の土地が発生するのを予防するためです。

最近、所有者不明土地の存在による景観・治安の悪化、近隣損害及び公共工事の実施の遅れ等が問題となっていますが、所有者不明土地となる要因として最も多いのが相続登記がされていないこと(約66・7%)、次に多いのが所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所の変更登記がされていないこと(約32・4%)であるといわれています。

そのため、所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所の変更登記の申請を義務付けて、不動産の所有者に関する最新の情報を公示することを目的としています。

 

2 所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所の変更登記の申請を義務履行には、期限が付されるのですか。

転居、婚姻、商号変更又は本店移転等によって不動産の登記名義人の氏名、名称又は住所が変更された日から、2年以内に当該変更の登記申請をしなければなりません。

なお、住居表示の実施や区制の施行等が生じた場合については、登記申請の義務がないと思われます。

 

3 2年以内に所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所の変更登記を申請しなかった場合、何らかのペナルティはありますか。

正当な理由がないのに登記の申請を怠ったときは、5万円以下の過料に処されます。

 

4 2年以内に所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所の変更登記をしなかった場合、直ちに過料が科せられることになるのでしょうか。

過料が科せられるのは、あくまで、正当な理由がないのに登記の申請を怠ったときに限られます。

具体的に、正当な理由の有無等を登記官がどのように判断するかについては、登記官が登記名義人に対して登記の申請をするようあらかじめ催告し、それでも登記申請を行わなかった場合に限り過料を科すこととする等、登記名義人の負担が重くならないように省令や通達によって定められ、運用される予定です。

 

5 登記官が、前期2-4にあるように、不動産の所有権の登記名義人の氏名、名称又は住所変更の登記を職権で行う場合、プライバシー保護やDV等の被害者保護の対処はされますか。

所有権の登記名義人が自然人であるときは、あらかじめ、登記官から当該自然人に対する照会を行い、当該照会を受けた自然人から申出があった場合に限り、職権で氏名、名称又は住所が登記されることになります。

また、所有権の登記名義人がDV被害者等である場合は、別途、住所に代わる事項を登記する新たな制度を設けることが予定されています。

第3 国内の連絡先の登記

 

 1 不動産の所有権の登記名義人が外国に居住する場合の登記事項について教えてください。

不動産の所有権の登記名義人が外国に居住するときは、登記記録から登記名義人の所在を探索することが困難になる場合が少なくないことから、登記名義人へのアクセスをより容易にするために、日本国内における連絡先として、所有権登記名義人以外の連絡先となる者の氏名又は名称及び住所等を登記することになります。この制度は、所有権の登記名義人が外国人であっても、また在外邦人であっても適用されます。

 

2 登記の対象となる日本国内の連絡先は、だれでもよいのですか。

日本国内に住所を有し、かつ、日本国内の連絡先となることを承諾している者であれば、個人・法人を問いません。

 

3 いろいろと手を尽くしましたが、日本国内の連絡先となる者が見つかりません。どうすればよいですか。

そのような場合には、「連絡先なし」と登記するとされています。

 

 

第4 所有不動産記録証明制度(仮称)

 

1 登記所が発行する不動産の名寄せの写しについて教えてください。

相続登記の推進等のため、日本国内において自己を登記名義人とする不動産の一覧(要綱においては、「所有不動産記録証明(仮称)」と呼ばれています。)の発行を求めることができる仕組みが新たに設けられます。なお、交付請求時に所定の手数料を納付することが必要です。

 

2 所有不動産記録証明(仮称)は、誰でも取得することができますか。

所有不動産記録証明(仮称)の取得は、所有権の登記名義人又はその相続人のいずれかの者に限られます。

ただし、交付申請手続を第三者に委任することができます。

第5 その他の改正点

 

1 相続で取得した土地を手放したいのですが、どうしたらよいですか。

相続で取得した土地のうち、建物が存しない、土壌汚染がない、担保権の設定がない、境界が明らかである等の一定要件を満たすものについては、法務大臣に対して、国庫に帰属させることについて承認を求めることができます。そして法務大臣から承認を受け、かつ、10年分の管理費相当(額を納付することで、当該土地を国庫に帰属させることができます。管理費の基準額は政令で定められることが予定されています。

家庭裁判所に「相続放棄」の申述をすると、現金・預金・有価証券等債権及び不動産に加え、負債(借金)など、被相続人の全ての権利と義務を一切受け継がないことになりますが、今回の「相続等による取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」では、不動産である土地のみを国に帰属させることができることになります。

2 遺産の分割の期間制限について、教えてください。

相続開始の時から10年を経過した場合は、寄与分や特別受益等を踏まえた具体的相続分の主張ができなくなり、遺産の分割は、原則として、法定相続分によることになります。

もっとも、裁判外における遺産の分割協議や家庭裁判所における遺産の分割調停において、相続人全員の合意がある場合は、これまでと同様に、必ずしも法定相続分によらない分割をすることもできるとされています。

3 共有についても改正がされると聞きましたが、改正された事項には、どのようなものがありますか。

所有者不明土地の問題が深刻化しやすい共有物につき、その管理を円滑に行えるようにするために、主に、次の6点が改正されます。

① 共有者全員の同意をもってすることができる行為(以下「変更行為」といいます。)

と、各共有者の持分の価格の過半数の同意をもってすることができる行為(「管理行為」)の定義を見直し、形状又は効用の著しい変更を伴わない共有物の修理や、共有物全体を目的とする一定期間内の短期の賃貸借が管理行為であることを条文上明らかにします。

② 共有物全体につき、各共有者の持分の価格の過半数の同意をもって、管理者を置くことができる旨を条文上明らかにします。併せて、管理者の義務や、辞任・解任の要件等の規定も整備します。

③ 所在不明の共有者がいる共有物につき変更行為(ただし、所在不明の共有者の持分を喪失させる行為を除く。)又は管理行為をしようとするときには、裁判所の関与のもと、公告等の所定の手続きを行うことで、所在不明の共有者を除外してそれらの行為をすることができる仕組みを設けます。

④ 共有物につき管理行為をしようとする場合において、管理行為を行うことの賛否を明らかにしない共有者がいるときは、裁判所の関与のもと、通知等の所定の手続きを行うことで、当該共有者を除外して管理行為をすることができる仕組みを設けます。

⑤ 所在不明の共有者の不動産の持分につき、裁判所の関与のもと、裁判所が定めた金銭の供託その他の所定の手続きを行うことで、他の共有者が当該持分を取得することができる仕組みを設けます。ただし、当該持分の取得原因が相続である場合(すなわち、遺産共有の場合)は、相続の開始から10年経過しているときに限ります。

⑥ 所在不明の共有者の不動産の持分につき、裁判所の関与のもと、裁判所が定めた金銭の供託その他の所定の手続きを行うことで、当該共有者を除いた他の共有者全員で不動産の全部を第三者に譲渡することができる仕組みを設けます。ただし、当該持分の取得原因が相続である場合(すなわち、遺産共有の場合)は、相続の開始から10年経過しているときに限ります。

4 所有者不明の不動産については、新たに管理人の制度が設けられると聞きましたが、どのような制度ですか。

所有者不明の土地の管理等を円滑にするため、土地の一筆ごとに、所有者不明土地管理人を置くことができるようになります。この管理人は、利害関係人の申立てに基づき、所有者不明土地管理命令と同時に選任されます。

この管理人については、管理処分の権限が当該管理人に専属し、取引の安全等を図る観点から、土地の登記記録に管理命令の登記がされます。さらに、所有者不明の建物についても上記と同様に、建物の一棟ごとに、所有者不明建物管理人を置くことができるようになります。なお、この管理人が管理不動産を処分する場合は、裁判所の許可が必要です。

5 所有者による管理が不適当な不動産についても、新たに管理人の制度が設けられると聞きましたが、、どのような制度ですか。

管理不全の土地の発生を防止するため、土地の一筆ごとに、管理不全土地管理者を置くことができるようになります。この管理人は、利害関係人の申立てに基づき、管理不全土地管理命令と同時に選任されます。

この管理人は、所有者の所在が明らかな場合においても選任されますので、発令によって土地の所有者の権利を侵害することのないよう、裁判所において発令前に意見聴取が行われます。また、この管理人については、前記4の所有者不明土地管理人と異なり、管理処分の権限は当該管理人に専属せず、また、土地の登記記録に管理命令の登記がされることもありません。さらに、所有者不明の建物についても上記と同様に、建物の一棟ごとに、管理不全建物管理人を置くことができるようになります。

なお、この管理人が管理不動産を処分する場合は、裁判所の許可が必要であり、前記4の所有者不明土地管理人と異なり、許可をするには、所有者の同意が必要です。

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